ミツバチについて、一昨年から奇妙な報道があった。 主にアメリカでの出来事だが、なぜか働き蜂が巣に帰ってこない。 残されたのは女王と幼虫、結局巣は潰れてしまう。 かといって、どこかで大量の死体がまとまって見つかったわけでもない。 人によってはこれをイナイイナイ病と呼んだ。 「二〇〇七年の春までに、実に北半球のミツバチの四分の一.が失朦した」。 本書はそれがいったいどういう現象であるのか、しっかりと解説したものであるρとても興味深い、でも真剣に考えると、なんとも恐ろしい本である。 結論をまず述べておこう。 この「蜂群崩壊症候群」の原因は単一ではない。 最大の背景は工業化された農業である。 それがハチたちに強いストレスを与え、免疫抵抗性を弱め、ダニやウィルスに対する防御を弱めた。 そこに農薬の複合汚染が重なり、精密な社会生活を営むミツバチの巣全体の活動をいわぽアルツハイマー状態に陥れた。 病み疲れた働き蜂たちは、採餌に出た先で倒れ、巣には戻れず、おそらくただ死んでいった。 著者はミツバチの正常な生活からはじめて、ハチたちが農業という経済活動に組み込まれていったいきさつ、ハチにどのような病気が発見されたか、などについて、きちんと報告していく。 私はそれをほとんど「もう一つの人間社会」を見る思いで読んだ。 厳密な証明と単一の原因を要求する現代の読者は、ひょっとすると不満を感じるかもしれない。 でも生きものが関係するシステムが起こす病的な現象で、単一の原因を提示する人がいたら、むしろそのほうが信用できない弓私はあえてそういいたい。 |